本書の著者は、街頭や個別の訪問販売、怪しげな宗教の寄付などで苦い思いを味わった経験から、セールスマンや広告主の世界に入り込み、人がどのような心理的メカニズムで動かされるのか解明した。

影響力の武器[第3版]~なぜ人は動かされるのか~
出版社 : 誠信書房; 第三版 (2014/7/10)
発売日 : 2014/7/10
単行本 : 492ページ
著者:ロバ−ト・B.チャルディ−ニ
米国を代表する社会心理学者の一人。現在、アリゾナ州立大学教授。社会的影響過程、援助行動、社会的規範などに関する数多くの業績で学会をリードしている。人の態度や行動を変化させる心理的な力について平易な語り口で解説する本書は、科学的知識に基づいて書かれた良書として専門家の間でも高い評価を受けており、米国でロングセラーとなっている。
この本を読むきっかけ
中田敦彦さんのYouTube大学で動画をみて「おもしろそうだな」と思い、本書を購入しました。
昨今では「行動経済学」「行動心理学」「本能マーケティング」などなど、心理学や脳科学とマーケティングを組み合わせてビジネスを展開していくことが流行しています。
この種のビジネス本はけっこうたくさん読んだのですが、著者の経験や主観が大きく入っていて、半分腑に落ちて半分腑に落ちないような感じでした。
この本の「はじめに」では下記のように書かれています。
読者の方々には、本書が「通俗的な」心理学読み物ではなく、科学的な土台のある本だとご理解いただけるでしょう。
本当にその通りで、科学的実証などのエビデンスが多く記されており、説得力はありますがかなりのボリュームです。
しかし、今まで腑に落ちなかったことが、すっきり腑に落ちることができました。
かなりボリュームある本ですが、中でも私が大切だと思ったことを、ランダムに順序を入れ替えて私自身がわかりやすいようにまとめました。
詳細を知りたい方はぜひ本書をご購読下さい。
第1章 影響力の武器
承諾の過程の多くは、自動的で簡便な反応を行おうとする人間の習性にのったものである
人間は、カチッとボタンを押すと、サーっとテープが回るように、たった1つの特徴によって引き起こされる自動的な行動パターンを持っています。
- 高価なもの=良質なもの
- 専門家がそう言うなら、正しいに違いない
- 最初に粗悪品を見せられると、次に見せられた普通の商品がとても良いものに思う
私たちは幼い頃からこうした力の影響力を受けています。そしてずっと、あまりにも広範な影響を受け続けているので、自分ではその力の存在にはほとんど気がつきません。
このような「てっとり早い」反応の利点は、その効率性と経済性にある
なぜ人はこの自動的な行動パターンばかり取ってしまうかというと、役に立つことが多い信号刺激に自動的に反応することによって、人は、貴重な時間やエネルギー、精神能力を節約できるからです。
最近の研究によるとスピードの速い現代の生活においては、もはや私たちは私的な重要事項についてさえも、十分に考えてから決定を下すことが難しくなっているようです。
これらの信号刺激を、自分の要求を通す武器として用いる人々がいる
悪いのは、自分が望む反応を、相手にとって不適切な場面で引き起こさせようとする人間がいる、ということです。(搾取)
第2章 返報性
受けた恩義に将来必ず報いなければならないという義務感
社会的進歩に不可欠なのが、受けた恩義に将来必ず報いなければならないという義務感です。
人類に広く共有され、しっかりと根付いているこの恩返しの気持ちは、人間社会の進化に非常に大きく貢献してきました。
これによって、人は食料や労力、世話といったものを他者へ与えても、それが決して無駄にはならないと確信できるようになったのです。
人類の進化の歴史において初めて、さまざまな資源を形の上では無償で与えたとしても、本当に無償で提供するわけではなくなったのです。
その結果「取引」という、まず誰かが自分の個人的な資源をほかの人に与えることから始めなければならない行為に対して、誰しも当然抱くであろう心理的抵抗感が減りました。
返報性のルールが確立されたのは、人と人とのあいだの互恵関係を促進し、人が損をする心配なしにそうした関係に踏み出せるようにするためでした。
他人から取るだけ取って、そのお返しをしようとしない人びとに対しては多くの人が嫌悪の念を感じますから、私たちは、他人から「たかり屋」とか「恩知らず」とか「借金を踏み倒した」とか言われないように一生懸命努力します。
しかしそうした努力をする過程で、私たちはしばしば、恩義を感じさせることによって一儲け企む相手にまんまと「だまされて」しまうことがあるのです”
拒否させた後に譲歩する
返報性のルールが妥協の過程を支配しているのですから、相手にイエスと言わせるための非常に効果的なテクニックの一部として、最初の譲歩を使うことができます。
これは「譲歩的要請法(ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック)」としても知られるテクニックですが、「拒否したら譲歩」法と呼ぶことにします。
まず確実に拒否されるような大きな要求を出し、それが拒否された後、それよりも小さなもともと受け入れほしいと思っていた要求を出すのです。
これらの要求を上手に組み合わせて提示できれば、二番目の要求は譲歩だと考えられ、こちらも譲歩をしなければという気になり、二番目の要求を受け入れられるのです。
返報性のルールでいえば、まずギブですが、「拒否したら譲歩法」は何もギブしていません。
ルールを作動させないようにする
やみくもに拒否するというやり方は、あまりお勧めできません。
たとえば、人が親切をしてくれるというなら、先々自分がお返しをする義務を負うことは心にとめておいて、それをありがたく頂戴しておけばいいのです。
それが返報性のルールを悪用されていることにはなりません。
むしろまったく逆で、人類の曙から個人にとっても社会とっても非常に有効だった「名誉ある義務のネットワーク」に加わることになるのです。
けれども、最初の親切が、私たちを刺激して、より大きなお返しを得ようとするために特別に仕組まれた策略であるとわかったら、そのときこそ、相手の行為に対してそれに見合ったやり方で対応するべきです。
第3章 コミットメントと一貫性
コミットメントと一貫した行動をとるように圧力がかかる
すでにしてしまったことと一貫していたい(そして、一貫していると他者から見てもらいたい)という欲求です。ひとたび決定を下したり、ある立場をとる(コミットする)と、自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動をとるように圧力がかかります。
そのような圧力によって、私たちは自分の決断を正当化しながら行動するようになります。
そして自分が正しい選択をしたと自分に言い聞かせるだけで、本当に、自分の決定に対する満足度が上がるのです。
一貫しているということは望ましく、適応的であるとみなされるからです。
一貫していないというのは、通常望ましくない性格特性であるとみなされます。(支離滅裂、裏表があるなど)
一貫性こそ、論理性、合理性、安定性、そして誠実さの核心をなすものなのです。
一貫性を保つことの便利さ
ある問題に対して自分の立場をはっきりさせ、強い一貫性をもつと、私たちはとても贅沢な生活が可能になります。
それ以上その問題について真剣に考える必要がなくなるのです。
日々出会う情報の嵐を取捨選択し、関連する事実したり困難な決定をする必要もないのです。
複雑な現代生活を営む上で「思考の近道」を私たちに提供してくれるのです。
一貫性を保ってさえいれば、考え続ける辛さから逃げられるのです。
一貫性にしがみつくことの愚かさ
ときに私たちは考えるのが辛いからではなく、考えた結果が不快だからという理由で、考えるのを避けることがあります。
理路整然と考えると、望んでいない答えがいまいましいくらいはっきりと出てしまうから、精神的な怠け者になるのです。
一貫性という頑丈な要塞のなかに閉じこもっていれば、理性の激しい攻撃を受けても傷つかずにいられるのです。
コミットメントをさせる
コミットメントをさせる(立場を明確にさせたり、公言させたりする)ことができたとしたら、自動的な一貫性を、そのコミットメントと一致させるお膳立てがととのったことになります。
一度、自分の立場を明確にすると、行動をその立場を一貫させようとする強い力が自然と生じます。
情報が少ない段階で行った予備的な判断にも影響を受け、最終段階の決定をその予備的な判断と一貫させようとします。
最初に小さな要求を飲ませ、それから関連するもっと大きな要求を通すというやり方には、「段階的要請法」という名前がついています。
書くことに魔術的な力がある
意見を書かせることで、本当に変わってしまうことがあります。それはは、書かれたものが簡単に公表できてしまうからです。
コミットメントに労力が投入されればそれだけ、コミットした人の態度に与える影響が強くなります。“
人は自分が外部からの強い圧力なしに、ある行為をする選択を行ったと考えるときに、その行為の責任が自分にあると認めるようになります。
承諾先取り法(ローポール・テクニック)
自らを補強するコミットメントは、理由を新たに付け加えながら成長します。
そうした行動をとるきっかけとなった元々の理由がなくなったとしても、新しい理由があるため、自分の行動が正しかったと考え続けられるのです。
第4章 社会的証明
人は自分の決定に確信をもてないとき・状況が曖昧なとき、ほかの人びとの行動に注意を向け、その人びとが自分と似ている場合に、それを正しいものとして受け入れようとします。
誤った社会的証明に影響されないために、次のことを肝に銘じることが必要です。
- 類似した他者が行っている明らかに偽りの証拠に対して敏感であること。
- 自分の行動を決定する際には、類似した他者の行動だけを決定の基礎にしないこと。
第5章 好意
人は自分が好意を感じている知人に対してイエスという傾向があります。
身体的魅力をもつ人は、自分の要求を通したり他者の態度を変化させたりする強い影響力があります。
自分と似た人には好意を感じ、その人の要求にあまり考えずにイエスと言う傾向があります。
お世辞は一般的に好意を高め、承諾を引き出しやすくなります。
繰り返し接触すると、馴染みをもつようになり、好意を促進する要因となります。
承諾の決定に対して好意が及ぼす悪影響を防ぐのに有効な手段は、承諾を引き出そうとしてくる相手に対して過度の好意をもっていないかということに特に敏感になることです。
第6章 権威
権威者の命令に従うことは、私たちに利益をもたらしてくれます。
人生の早い時期に、親や教師の忠告に従えば自分のためになるとは学習します。
それは彼らがより多くの知識をもっているからであり、もう一つには賞罰を決められるからです。
わたちはしばしば権威の実体とおなじくらい、その権威を表すシンボルにも影響されやすくなっています。
- 肩書
- 服装
- 装飾品(自動車)
権威者の影響力から自分自身を守るために使える質問が二つあります。
- この権威者は本当に専門家だろうか
- この専門家は、どの程度誠実なのだろうか
自分自身にとって少し不利な情報を私たちに提供し誠実そうに見せかけ、その後に提供する情報が信頼できるものであるかのように思いこませる専門家もいるので注意が必要です。
第7章 希少性
手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてきます。
そもそも人の脳は、私たちを損失から守るために進化してきました。
損失に関する意思決定は、獲得に関する意思決定よりも邪魔しにくいという研究結果が出ているのです。
たいていの場合、手に入れにくい物は、簡単に手に入る物よりよいものだということを私たちは知っています。だからこそ入手しやすさを手掛かりにして、商品の品質を迅速かつ正確に判断できるのです。
したがって、希少性の原理が威力をもつ理由の一つは、それに従っていれば、通常、効率的かつ正確な判断が下せるという点にあります。
自由な選択が制限されたり脅かされたりすると、自由を回復しようとする欲求から、私たちはその自由を以前より強く求めるようになります。
それが特に顕著になる時期が「恐るべき二歳児」と十代です。
これらの時期はいずれも、個としての感覚が現れてくるという特徴があり、この感覚が、支配、権利、自由といった問題を際立たせます。この時期にある者は、制限に対してとりわけ敏感です。
希少性の原理は、商品の価値だけでなく、情報の評価のされ方にも適用できます。
ある情報へのアクセスが制限されると、人は、それを手に入れたくなり、またそれに賛同するようになります。
「ある品が新たに希少なものとなった場合」と「他人と競い合っている場合」は、希少性の原理が最も適用できると考えられます。
対策としては、希少性を含むような状況では、頭にカッと血が上ってしまわないように注意することです。
第8章 手っとり早い影響力
私たちは、人や物について何か決定を下すときに、利用可能な関連情報をすべて使ったりはせずに、全体を代表するたった一つの情報だけ使います。
利用できるデータのほんの一部の特徴に頼って、愚かな決定を下してしまう傾向があるにもかかわらず、認知の過剰負荷傾向が強まる流れの速い現代では、私たちは思考の近道を頻繁に使わざるを得ないのです。
そのため、影響力の起爆剤をいくつか忍ばせるタイプの承諾誘導の専門家はますます成功しやすくなっています。
急激に変容する現代で、日常生活を営むには、すべてに対処する信頼の置ける手っ取り早い方法や健全な実用的方法がかかせません。
だからこそ自らの利益のために私たち実用的方法を裏切るような真似をする人(承諾誘導の技術の使い手)に出会ったら、なんとしても思い知らせてやらなければなりません。
私たちは思考の近道ができる限り効率的に働いてほしいのです。
こうした本来の働きが、それを悪用する人間の用いる手口によって鈍ってしまえば、私たちはそれをあまり使わなくなってしまうでしょうし、決定を迫られるさまざまな出来事にうまく対処するのが難しくなってしまいます。
戦うことなしに、ただ指をくわえてみているわけにはいきません。
失うものはあまりにも大きいのです。
感想
脳科学や行動経済学が発達して、こうした「影響力の武器」をマーケティングとして使う企業が増えるのは当然のことですが、著者は「承諾誘導の使い手」に対して憤慨しています。
しかし、利益を追求する資本主義の世界ではこういった流れは止められないかもしれません。
まずはそのような「手口」があるのだということを知り、ひっかからないような自分なりの対策を取るしかないのだと思いました。
