「日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる!」 前著『幸福の「資本」論』で幸福を3つの資本で定義づけた橘玲氏が、「人生の成功法則」について「合理性」を軸に3つの資本を再検証。最新の学術的知見を織り交ぜなら、現代人が「自由に生きる」ための理論、手段、実践を突き詰めるシンプルで合理的な人生設計

シンプルで合理的な人生設計
出版社 : ダイヤモンド社
発売日 : 2023/3/7
単行本 : 356ページ
著者:橘 玲
2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部を超えるベストセラーに。06年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。
この本を読むきっかけ
前著『幸福の「資本」論』は刊行当時2017年に「おもしろそうだな」とすぐ購入して読みました。それまで思っていたモヤモヤしていたことが、体系化して分かりやすくまとめてあり、スッキリし腑に落ちたのを覚えています。
行き当たりばったりの生活をしている思春期の子どもに、意味のある行動を諭しても屁理屈をこねるので、どうやって伝えるべきか考えあぐねていたところ『幸福の「資本」論』を思い出しました。
学校生活が主体で世間知らずな子どもが、進路選択を経て社会に出て生きていくにあたって、ベースとなる根源的な考え方を伝えたいと思い『幸福の「資本」論』を買い直しました。
書店に言ったら、『幸福の「資本」論』の続編である「シンプルで合理的な人生設計」(2023/3/7)が平積みされており、合わせて購入。
『幸福の「資本」論』を一から読み直したのち、続けて「シンプルで合理的な人生設計」を読みました。
たった5年間ですが、その間にも世の中はかなり変貌を遂げました。
しかし基本的な原則はブレずに変わっておらず、現在の世の中の状況に合わせた例示をしていたり、科学の進歩による新たなエビデンスや、そのことで前著の研究が覆ったことなど、5年間のアップデートを感じることができました。

成功哲学の2つの系譜
自己啓発本などの「成功哲学」は、大きく2つの系譜に分けられます。
「スピリチュアル系」
「合理的意思決定理論」
「スピリチュアル系」の成功法則
「スピリチュアル系」の成功法則とは、個人の意識を変えれば世界も変わり(意識と宇宙はつながっている)、幸福な人生や物質的な成功が実現できるとするものです。
この成功哲学は強い現状肯定の思想で、変えることのできないもの(現実世界)は基本的によいもので(なぜなら神が創造したのだから)、変えるべきものは自分自身であり、正しい意識をもつことで世界と調和できるとします。
相手の意図をネガティブに曲解していてはコミュニケーションも成立しないですし、努力は必ず報われるわけでないとしても、努力しなければ成し遂げられないのですから、ここまではきわめて常識的な話です。
しかしこの成功哲学の問題として下記が考えられます。
- 「世界(現実)は変えられないとしても、思考(認知)は変えられるはずだ」と考えていること。
しかし、行動遺伝学は考え方(マインドセット)を含むあらゆる性向に遺伝が濃い影を落としていることを半世紀かけて証明してきた。 - 強固な自己責任論に帰結する
幸せになろうとするほど、幸せから遠ざかる
わたしたちはみな、少しでも幸せになろうと懸命に努力しています。
スペインの心理学者エドガー・カバナスと、イスラエルの社会学・人類学者エヴァ・イルーズはこれを「ハッピークラシー(幸せの専制)」と呼びます。
2000年代になって急速に広まったポジティブ心理学は、因果関係を逆転させて「幸せなひとが成功する」と説きます。
だとしたらやるべきことは「幸せのマインドセット」を身につけることで、社会的・経済的な成功が「引き寄せられて」くることになりますが、統計的に効果はありませんでした。
逆に「幸せ」が絶対的な基準になったことで、かえって幸福度が下がっているのです。
幸せになろうと努力すればするほど、自己改善の“無限ループ”に落ち込んで、ますます苦しくなってしまうとのこと。
「きりのない自己改善」と「絶えることない消費」が、幸せ産業の隆盛を支えているのです。
目指すべきは「幸福(ポジティブな感情)」を増やすことではなく、より合理的・効率的に「幸福の土台」をつくることになるのではないでしょうか。
「合理的意思決定理論」という成功法則
成功哲学のもうひとつの系譜は、経済学(ゲーム理論)や意思決定理論で研究されてきた「合理的意思決定」です。
第二次世界大戦後の科学万能主義を背景にあらゆる選択・行動は理論的に説明できるし、合理的な解を求めることが可能と主張しました。
行ってみれば「進化的合理性(直観)」から「理論的合理性(理性)」へというパラダイム転換です。
行動経済学は、わたしたちの意思決定がさまざなバイアスやノイズによって歪められていることを明らかにしました。だとしたら、こうした歪みを修正して理論的・数学的に正しい意思決定をすればいいではないか、と考えるのは当然のことです。
行動経済学を社会政策に応用したのが「ナッジ」です。
個人の自由意思を尊重したまま、よりよい方向にナッジする(そっと肘でつつく)ことで、ひとびとを正しい意思決定に導けるとします。
合理的意思決定理論は、条件を満たすときにしか役に立ちません。
- すべてのデータが揃っていること
- データの分布がベルカーブになる
- 複数回の試行が可能
人生における重要な選択(結婚や出産)はこの条件を満たさないものばかりです。
合理的意思決定理論は、理屈のうえではどれほど正しくても、個人の意思決定ではほとんどの問題で使いものにならないのです。
唯一の成功法則
「選択しない」という選択
わたしたちが人生で使える資源は限られています。だとすれば、もっとも効果的なのは有限の資源をなにに投じるかを最初から決めておくことでしょう。これが「選択しない」という選択です。
人生の優先順位の低いものは徹底して定型化することで、優先順位の高いものにより多くの資源を投じることができようになります。
人的資本と社会資本のあいだにはきびいしいトレードオフがある
ほとんど触れられないのは、社会資本を維持するのにも大きなコストがかかっているということです。
家族は友だちよりも強い絆で結ばれているものの、その関係はやはり時間資源の量に反映されるでしょう。
子育てを妻(専業主婦)に丸投げする夫が家族の絆を維持できたのは、不足する時間資源をお金によって補っていたからです。
なぜ筋トレするのか?
人生の資源が有限で、それを人的資本に投じることが成功法則だとすれば、なぜ筋トレが流行するのでしょうか?
健康のためなどの理由があると思いますが、過度なワークアウトはかえって健康を損ねるし、女性はナルシシストだと思って警戒します。
しかし、筋トレにはそれ以上に「ライバルより優秀だという強いシグナリング」という合理的な理由があるのです。
仕事のパフォーマンスを維持することで、潜在的な能力の高さを効果的にアピールできます。
「ビジネスパーソンはアートに造詣がなければならない」というもの同じ類の話で、一定の時間資源の投資が必要になります。さらにアートを購入することで(どうでもいいものに散在できるほど裕福だという)金融資本のシグナリングもできます。
これらの「無駄」は、成功した者が顕示するからこそ強い印象をあたえるのです。
「機械へのアウトソース」が選択のコストを大きく引き下げる
社会はますます複雑になり、市場には膨大なコンテンツや商品が溢れています。
わたしたちはみな「選択疲れ」に陥っていて、だからこそ「コスパ」や「タイパ」というわかりやすい基準に頼ろうとします。
その結果、日々の生活の面倒なことはすべて機械に任せてしまうのが合理的になります。
自分の認知についてじっくりと内省するタイプ(直観ですぐに判断するのではなく、よく考えてから判断するタイプ)は、機械からの提案を歓迎する傾向にあり、あまり自分の認知について内省しないひとは、アルゴリズムの提案に強い嫌悪感すら示すとのこと。
認知能力の高いひとほど機械(AI)を上手に利用し、そうでないひととのあいだの「格差」が開いていくことを示唆しています。
「シンプルで合理的なライフスタイル」は、テクノロジーによる脳のハッキングに対抗するもっとも強力な方法でもあります。
いったん合理的に設計してしまえば、それ以外の選択を考慮する必要はないのですから、どれほど巧妙なプロモーションも無視できます。
SNSの魔界に迷い込まない効果的な方法は、人的資本に投資し、実生活での社会的ステイタスを上げることではないでしょうか。
ベイズ的な生き方で成功確率を上げる
人生の優先順位を決め、それ以外のものを(ミニマリズムの手法で)徹底的に合理化すれば、その分だけ大事なことに多くの資源を投入できます。
このとき「成功」にとって重要なのは、「自分にはこれしかない」と結論をきめることなく、トライ・アンド・エラーを繰り返すことです。
そのうえで「好きなこと、得意なこと」が見つかったら、そこに人的資本のすべてを集中し、まずは20%の努力で80%のパフォーマンスを達成できるようにします。
これだけで10人のうち8人には勝てるようになります。
そこから「一流」への道はきびしいですが、その壁を超えることができなくても、分野やジャンルをずらしたり、新しい場所を探したりすることで、いずれは自分だけのニッチを見つけることができるでしょう。
そうなれば、あとはできるだけ長く人的資本を活用して、生涯で得る収入と評判を最大化すればいいのです。
ベイズ的な生き方をするには、つねに複数の選択肢をもっておく必要があります。
自分や家族の当座の生活を支えるだけの金融資本(一般には年収3年分)と、次の仕事をすぐに見つけられる人的資本とネットワーク(会社内ではなく業界内での評判)です。
最後に、人生には一度の選択が不均衡に大きな影響をもち、トライ・アンド・エラーが不可能なものがあります。
親(とりわけ母親)になることです。「親にならない」という選択もありますが、ある年齢になってからはやり直すことはできません。
すべてのことに合理的な解があるわけではなですし、もしそれが可能だとしても、そんな人生は面白くもたのしくもないでしょう。
あとがき
日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる
書店にはさまざまな成功哲学を説く自己啓発本が並んでいますが、それぞれの本に熱烈な支持者がいる一方で、「役に立たない」「期待はずれだ」という批判も多くあります。
その理由(のひとつ)は、個人によってパーソナリティ(性格)にちがいがあるからです。
世間的に「成功者」とされるひとたちは、外向的なひとが圧倒的多数です。
外向性とは「刺激に対する感度の閾値が高い」ことで、それによって強い刺激を求めるようになると考えられます。
それに対して内向的なひとは、「刺激に対する感度の閾値が低い」ため、強い刺激を避けるようになります。
そう考えれば、「成功者」のなかに外向的なパーソナリティが多いことは当たり前です。
強い刺激を求めることは、つねに成功を約束するわけではありません。
最近では、「内向的な方が、(専門職などで)経済的に成功しやすい」といわれるようになりました。
パーソナリティには遺伝と環境がかかわっていますが、思春期までに「キャラ」が決まると、それ以降はほとんど変わらないとされます。
だから本書の続編は「成功するためには、人生の土台を、あなたのパーソナリティに合わせて合理的に設計せよ」という話になります。
著者と異なるパーソナリティのひとには「役に立たない」と思われるかもしれません。-逆にいえば、私と似ている読者にはきっと役に立つはずです。
感想
数年前に「クリエイティブクラス」を目指して行動を起こし、日々の仕事をこなしながら、各分野で「成功者」と言われる人に話を伺ったり、「成功」や「ライフハック」に関するビジネス書を読んだりもしました。
その度に「共感できるもの」と「あまり共感を感じないもの」があり、はてどうしたものか、とうっすら思いつつも「とりあえず吸収させていただこう」と実践したものもありました。
私の知っている成功者の方を見習って走り回っていましたが、気が付けばかなり疲弊しておりました。
数年前に「クリエイティブクラス」を目指して行動を起こしたものの、社交に時間を取られ、私が真に大切だと思う人的資本(プロフェッション)に投資する時間の確保がままならず、それほど外向的な性格ではないこともあって少し参っていたのを感じていました。
ちょうどこの本を読んでいた時期は、コロナ禍の制限もほぼ解除されてはいたものの、プライベートな問題で外(社交の場)へ出ることを意図的に控えておりました。
積極的に外へ出ることができない状況なので、ならば今までやろうと思ってできなかった内向きなこと(PC関連や読書や勉強)をしておりました。
「成功するためには、人生の土台を、あなたのパーソナリティに合わせて合理的に設計せよ」というエピローグにあった言葉こそが、今まで手探りで試行錯誤してきたことの答えだったのだな、と目の前が開けた思いです。
(成功者のアドバイスや自己啓発本の中で、共感できなかったものがある理由ですね)
